白魚四代記 その１
宿ノ浦郷 白魚（しらお）地区に「千人塚」と呼ばれる墓地があります。
▲県立中五島高校周辺が白魚地区にあたります。
▲正平１２年（１３５７年）、白魚地区の北に位置する京島で、在地の豪族・白魚氏と、
青方を本拠とする青方氏の戦がありました。このときの戦死者の墓が千人塚だそうです。
▲千人塚は古くから近寄ると祟りがあるとされ、以来、昭和６２年（１９８７年）に
旧若松町の文化財に指定・整備されるまでほとんど手入れされることなく、荒れ果て
たままだったそうです。
▲今回は「白魚千軒」といわれるまで繁栄を極めた白魚地区を、親子４代、約１００年に
渡って治めた白魚氏について調べてみました。
青方氏の興り
▲白魚氏は、建長８年（１２５６年）８月１１日に、青方郷を本拠とした豪族・青方氏の
初代当主・青方家高が、次男・弘高に白魚・佐尾の両地区を与えたことに始まります。
▲青方氏の始祖は、藤原道長の後裔で奈良・東大寺の僧だった玄城房 尋覚（じんかく）
という人物だそうです。
元暦元年（１１８４年）、玄城房尋覚は母が小値賀島の領主・清原 是包（これかね）の
妹だった縁から小値賀島に移住します。そして叔父の是包の養子に入り、小値賀島と
この件に関して、この地方の有力な豪族である松浦氏との間に一悶着あったものの、
建永２年（１２０７年）に鎌倉幕府から正式に地頭職に任命され、将軍と主従関係を
結ぶ御家人となりました。
▲小値賀島はこちらです。
承元２年（１２０８年）、尋覚は長男・通澄（みちずみ）に小値賀島、次男・家高（いえ
たか）に中通島の地頭職を分割して与えましたが、同年中に尋覚は家高の地頭職を取り
上げ長男・通澄に与え、次男・家高は通澄に代わって中通島の事務を司る「下沙汰職」
に降格しました。
この前後だと思いますが、通澄・家高兄弟は中通島の奈摩に移ったと伝えられます。
ところで、長男・通澄は本名を「通高（みちたか）」と言うそうですが、この物語では
「通澄」で進めたいと思います。
▲奈摩郷はこちらです。
▲承元３年（１２０９年）、通澄は奈摩郷に藤原氏の始祖である「天津児屋根命」の
神霊を勧請し、政彦神社を創建しています。
▲承久元年（１２１９年）、通澄は松浦氏系統の峯 持（たもつ）を養子に迎えました。
通澄は両島の地頭職を峯氏に継承させ、家高は引き続き下沙汰職を務めました。以降、
家高とその一族は、地頭・峯氏を相手取り中通島地頭職奪還の訴訟を続けていきます。
地頭職とは、現在でいえば首長兼警察署長のようなものだそうですが、下沙汰職とい
うのは、これに仕える管理職といったところでしょうか。
▲ところで、松浦氏の系図は数種類あってどれが本当なのかわからないそうですが、
峯 持の父親は友住郷の鎌倉神社の祠でご紹介した峯 披である、とする系図もあるよう
です。後年、峯 持は平戸島に本拠を移して平戸姓を名乗り、江戸時代には６万３千石
を治める平戸松浦氏の礎を築きました。
▲暦仁元年（１２３８年）、家高は峠を隔てて南に隣接する青方に移住して青方氏を
興しました。
→ 白魚四代記 その２につづきます
※地名や人物名の表記や読みは、近藤章著「白魚盛衰記」を参考にしています。
【参考文献リスト】
・中世五島武士団の生態（新木涵人）
・白魚盛衰記（近藤章）
