【若松】 ちょっと怖い七頭子宮 その5・有福編
七頭子宮の分霊をお祀りする頭子(つもりこ)神社は有福郷宮田地区にある神社です。
▲若松島西方に浮かぶ日島・有福島・漁生浦島の3島へは、橋を渡って島伝いに行く
わけですが、3島の中央に位置するのが有福島です。
▲有福島遠景。
▲漁生浦島からこんな感じで防波堤兼用道路が通っています。
▲有福・頭子神社は集落の北の端、日島との防波堤兼用道路の付け根辺りにあります。
▲ところで、宮崎賢太郎著「カクレキリシタン」によると、この有福郷には平成8年まで
カクレキリシタンの「クルワ」があったそうです。
「クルワ」について同著から抜粋してみます。
有福ではカクレキリシタンのことは「元帳」とも「古帳」ともいう。ひとつの元帳
に属する仲間のことを「クルワ」という。
組織(クルワ)は帳役-看坊役-取次役-宿老の四役からなる。帳役は「大将ド
ン」とも呼ばれ、帳役以外の役職者を「ジンジ(爺)さん」と言う。
有福郷には「小田」 「馬込」 「宮田」 「餅の木」の4地区に4つのクルワがあったそう
ですが、平成8年の餅の木のクルワの解散を最後に有福島のクルワはなくなってしまった
そうです。
▲ちょっと怖い七頭子宮 その1・若松編 でご紹介した若松神社の由緒書きの「棹に首
七つ」は、この有福島ではキリシタン殉教者のものであるとされているそうです。
▲その分霊を祀る有福・頭子神社は宮田地区に鎮座しますが、古くから「クルワ」の
人々によって殉教者を祀る神社として信仰を集めていたことから、「大切なのは御神
体がキリシタン殉教者のものであるかどうかということではなく、そのような伝承と
信仰が存在するということである」として「キリシタン神社であるとよんで差し支え
ない」と宮崎賢太郎氏は前述の本で書かれています。
カクレキリシタンは約230年の潜伏期間を仏教徒や神社の氏子を装って信仰を維持
してきたとされます。近年までお葬式はまず仏式で行い、僧侶が帰った後に「送り」と
いわれるカクレキリシタンの葬儀を行うなど、2重の形式で行われていたそうです。
▲同著に若松島・月ノ浦地区の「送り」の際に唱えられる「お経崩しのオラショ」が
紹介されていたので抜粋したいと思います。
マリアいき道いたらんさまたげひとつ、しきしんふたつこの世界、三つ天狗に今日
敵にしたがわれ申さんように、マリアてらすに捧げ頼み奉る
この数え歌のような「お経崩しのオラショ」を見ると、キリスト教が基盤にあるものの、
仏教や日本の民俗信仰と深く結びついていることがわかりますね。「いたらん」は
方言で「余計な」、「しきしん」は仏教用語の「色心(物質と精神)」だと思います。
キリシタン神社として有名なものは長崎市の枯松神社ですが、この有福・頭子神社の
ほかにも新上五島町にはもう一つキリシタン神社があるとされています。
が、それはまた別のお話。
【参考文献リスト】
・カクレキリシタン(宮崎賢太郎)