【有川】 江ノ浜郷の江ノ浜薬師堂
江ノ浜郷に「江ノ浜薬師堂」というお堂がありますが、この薬師堂は 藤内左衛門主馬
(とうないざえもんしゅめ)という人物によって創建されたと伝えられます。
▲場所はこちらです。
元文2年(1737年)に写された「江ノ浜薬師縁起」によると、創建は建久6年
(1195年)3月だそうです。要約して説明してみましょう。
藤内左衛門主馬という人が、江ノ浜の背後の山に登ったら塔のような岩があった。
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岩の中からお経を唱える声が聞こえたので、守り本尊を岩に掛けた。
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しばらく休んでいると江ノ浜の老人がやってきて「落ち行く人と見受けますが、ど
なたですか?」と尋ねられたので、名を名乗って「兵乱に巻き込まれてやってきま
した」と答えた。
と、ここで藤内左衛門は不思議な夢を見たという話をはじめます。
「この場所は夢で見た風景と少しも変わらないので、ここに私の薬師如来像と十二
神像を安置させてください」と願い出た。
現在、藤内左衛門が仏像を安置したとされる場所には「トンタケサン」と呼ばれる祠
がお祀りされています。
▲江ノ浜の背後には藤嶽(とうたけ)という山がありますが、この中腹に藤ヶ嶽神社
という神社があります。
▲場所はこちらです。
2010年12月に参拝した際、日ごろの運動不足が祟ったせいかと死ぬような思い
をしました。「山なめんな!」ということで、もう登りたくないので ここからは前回
参拝した際の写真でお楽しみください。
▲参道入口の鳥居。
▲20分ほどで拝殿に到着しますが、この後ろに奇妙な岩があります。
▲こちらが藤内左衛門が仏像を安置したとされる岩、「トンタケサン(藤嶽様)」。
▲薄い板を何枚も重ねたような ちょっと不思議な形状ですが、創建当初の薬師堂は、
この辺りに営まれていたようですね。
▲元禄12年(1699年)、江ノ浜薬師は御籤によって現在地に遷されました。
案内板によりますと、本尊の薬師如来と日光・月光の薬師三尊、さらにそれを守護する
十二神像が、町の文化財に指定されています。
江戸時代には福江藩主の崇敬も篤かったようで、江戸出府の際に風待ちで上五島に滞在
した折には江ノ浜薬師に参拝したという記録も残っています。
▲境内には藤内左衛門主馬のお墓もありましたので、実在の人物だったんでしょうね。
▲同じ境内の藤内左衛門主馬のお墓の正面に、お地蔵様にまじって五輪塔がありますが、
「花清」と刻字されているだけで、誰を供養したもなのか、わからないそうです。
▲また、薬師堂と藤嶽の中間には「トーノシロ」という室町期の五輪塔と宝篋印塔群
があります。
▲だいぶジブリ感がありますが、こちらも「由玖女」という女性の名前が刻まれてい
るだけで、誰を供養したものなかは わからないそうです。
これらの五輪塔と宝篋印塔が建立されたとされる室町期の江ノ浜には、「江ノ浜氏」と
いう在郷勢力がいたことから、何かしらの関わりがあるそうですが、「トーノシロ」と
いう通称から、藤内左衛門との関連もあるのかもしれませんね。
藤内左衛門主馬、花清、由玖女と、江ノ浜郷は謎が多いです。
【参考文献】