スメルズ for Kamigoto

知られざる新上五島町の魅力をスメルする。

【有川】 潮合騒動の後日談

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 亀山社中練習船・ワイルウエフ号の遭難事故にまつわるエトセトラですが、この事

故は坂本龍馬が関連したとされるにもかかわらず、昭和43年9月に3名の学校教員が

墓碑を発見するまで地元では忘れられた物語でした。

 

上五島の歴史と風土」という本に掲載された発見者の山下禎三郎氏の手記と、こちら

のサイトhttp://renkan.exblog.jp/15109654に同じく発見者の吉居辰美氏の発見に至る

までの顛末が掲載されていましたので要約して説明してみましょう。

 

 昭和43年9月末、山下氏の自宅を同僚の吉居氏が訪れ、「五島のシオヤザキ

 知っていますか?」と尋ねた。

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 友住出身だった山下氏は「江ノ浜のシオヤンハナなら知っている」と答えた。

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 吉居氏は持参した司馬遼太郎著「竜馬がゆく」を開いて、「遭難事故の記載があ

 り、龍馬も慰霊のために五島のシオヤザキを訪れたそうだ」と見せた。

 

このとき、友住出身の山下氏はワイルウエフ号の遭難事故を知らなかったそうです。

 

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▲現在では遭難事故の伝承に基づいて、江ノ浜郷内の潮合崎を臨む場所に「坂本龍馬

ゆかりの広場」を整備。さらに合掌する龍馬像を建立して新たな観光スポットとしても

広く知られているようですが、当時は事故について知る人がなかったことが窺えますね。

 

 ▲場所はこちらです。

 

このような事故があったことを知った山下・吉居両氏に加え同僚の古賀氏は、龍馬が

慰霊のために建立を依頼したとされる墓碑を突き止めようと調査します。

 

 まず下調べとして地図を調べた。

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 江ノ浜の潮合崎で現地調査するも空振り。あきらめて帰ることに。

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 山下氏が「せっかくなので江ノ浜の薬師堂に立ち寄ってみよう」と提案。

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 偶然、薬師堂の石段で田崎さんという老人に出逢った。

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 「墓碑についてしらないか?」と老人に尋ねたが老人は知らなかった。

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 しつこく尋ねてみたら「こんな唄を知っている」と言って、次のような俗謡を唄い

 だした。

 

 そど(騒動よ、そど、 そど、 潮谷そどや、

 五月二日の明け六つに 異国の船とは知らねども

 どことも知れぬ、島見せぬ 島もだんだん見えるして

 かねの錨をつけこんで つけども錨がきかずして

 石に当たりて水船に 流れて行くのがどこなれば

 上口さしてぞ流れ行く 江ノ浜前にぞ 流れつく

 どなたも錦の対の衣装 こりゃ何事じゃと 村中が

 浜に騒ぎて大騒ぎ 国はいづことたずぬれば

 国は薩摩の鹿児島で 積荷は何ぞとたずぬれば

 大砲(おおづつ) 小砲(こづつ)つみまぜて

 かなきんなどを さしにして

 さぞやお世話じゃ 浦田さん

 

歌の最後の「浦田さん」は浦田運次郎のことですね。この歌が紛れもなくワイルウエ

フ号の遭難事故を唄ったものであり、墓碑も江ノ浜にあると確信した3人は江ノ浜の

墓地に向かいます。

 

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▲後にわかったことですが、江ノ浜で唯一この歌を覚えていたのは薬師堂で出会った

田崎老人だけだったそうです。

 

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▲そして吉居・古賀両氏は墓地の中央を探索。山下氏は「何かの力に引き寄せられる

ように一基だけ海に向かって建っている大きな墓に向かって」歩き出します。

 

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▲碑面を見た山下氏は、思わず大声で「あったぞう!」と、叫んだそうです。墓地に

入って2分足らずのことだったそうです。

 

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▲早速「竜馬がゆく」に書かれたワイルウエフ号の乗員と、墓碑に刻まれた人名を照

合したところ、一部一致しない個所があったものの、まさしく3名が探し求めていた

墓碑でした。

 

江ノ浜の人々に墓碑の由来を尋ねに走ったところ、「さつまじんさま」と呼ばれてい

ることがわかったそうですが、墓碑の由来について知る者はいなかったそうです。

 

▲墓碑のある江ノ浜墓地はこちらです。

  

この発見を契機に当時の有川町教育委員会が動き出し、友住遠海番役・安永惣兵衛が

浦田運次郎の供述を書いた古文書が福岡で発見され、ワイルウエフ号の遭難事故から

102年経ってようやく潮合騒動の全体が明るみに出ました。

 

俗謡が思わぬ史実を唄っていたという、MASTERキートンばりのお話でした。

 

偶然っておそろしいですね。

 

【参考文献リスト】

【龍馬伝】ワイル・ウエフ号遭難の慰霊碑発見顛末記 : 長崎県職員公式ブログ

上五島の歴史と風土(上五島歴史と文化の会)

・ふるさとの歩み(有川町教育委員会

 

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